無題-3

ああもういやになっちゃったな。


連絡もせずに、その場で撮った


彼の最寄りの駅の写真を送って、


息を切らして現れた彼を見て、


ちょっと遅かったんじゃない?、なんて言って


今すぐ会いに行きたいな。


そしたら私、ラブコメ漫画の主人公みたいね。




「今日、お休みを貰ってもいいですか?」




私が主人公になるには、誰かの許可がいる。

無題-2

人が怖くなる瞬間というものは、自分にはないものを相手に見出したときだと思う。


自分にはない技術、自分にはない容姿、自分には感情。


それが自分に向くことも当然あると思う。


渋谷のSTARBUCKSからスクランブル交差点を見下ろしているとふと、


「こいつら全員ぶち殺してやりたい」


という衝動に駆られることがある。


自分でも意味が分からない。


あの人たちは普通に渋谷に遊びに来ているだけなのに、私に危害を加えたわけじゃないのに、何故こんな感情が湧くのか。




私は人に怒らない方だと思う。


人に怒ってしまう自分が嫌いなのだ。


人の言動ひとつで無駄なエネルギーを使うことが嫌でならない。


だから色恋なんてもってのほかで、友達が


「彼のなんてことない仕草で胸がときめく」


とよくある惚気話を話していても、理解が出来ないのだ。


その友達は俗に言う恋愛体質で、好きな人が出来ては付き合って、飽きて別れてまた繰り返しをしている。


だが、その好きという感情に嘘偽りはない。


彼女はいつだって人に恋をしている。


また彼女は


LINEあんま返ってこなくて〜...


とよく愚痴る。


私もLINEの返信は遅い方で、なんてことない案件なら平気で一週間くらい返さない。


それでよく怒られる。


でも私には何一つ理解出来ないから治そうと思えない。


人からLINEが返ってこないだけでなんで感情が動くのか。


「〇日遊びに行こうよ!」


なら早めに返すが、


「この前行ったランチが美味しかったんだよね〜!」


なんて正直私にとってはどうでもいいことなのだ。


会話は、私にとって途方もないエネルギーを消費する行為だ。


だから「他愛もない会話」というものが苦手で仕方ない。


人は、苦手なことは意識していなくても避けてしまう。


避けてしまうはずなのに、私は見知らぬ人に殺意を抱く。


隣の人のボールペンを奪って目に突き立てやりたい。


顔を踏み荒らしてぐちゃぐちゃにしてやりたい。


それを実行する私を意図も容易く想像出来てしまう。


予定をドタキャンされても、


服にジュースをかけられても、


生理だから、と言っても いいからの一言で一蹴され犯されたときでも、


私は怒らないのに。


怒ることに脳のリソースを割きたくない。


なのに私は今隣で幸せそうに話すカップルをどろどろにしてやることで頭がいっぱいだ。


自分にはない、他人を思いやる、という行為が出来る人種がとても恐ろしく、見ていられなくなってしまって、殺したくなる。


あまり感情が波立たない私が、恐怖というものを前にして殺意、あるいは破壊衝動に狂わされそうになり、それにもまた怖くなった。




カップと同程度まで積み上げたコーヒーフレッシュの空き容器をゴミ箱に乱雑に突っ込み、


スプラッター映画も真っ青の脳内に嫌気を感じながら店を出た。





無題-1




よくある出会い系で知り合った子だった。会う度会う度心配になるほど血色が悪くて、いつも死んだような顔をしていた。今日は焼肉屋に行きたいらしい。ハチ公で待ち合わせて少し歩く。行きたいと言われたところに連れて行っても、美味しいねと一言言うくらいで表情は一向に明るくならない。普段はキャバクラをやっているようなのだがこの調子で接客していたらどうしようかと、保護者のような気持ちになる。連絡はいつも自分から送るばかりで彼女からはたまにしか返ってこない。返ってくるのは大抵彼女が暇なときで、「このまま家に居続けたら死んじゃうから飯連れてって」といった具合いのメッセが来る。対して自分は、返ってこないことが分かっていながらも日記のような他愛もない連絡をしてしまう。冗談で犯すぞなんて言ってみたこともあったが、彼女は相変わらずの調子で煙を吐きながら気持ち悪、とこっちになんて目もくれないで言うのだ。



それからしばらく経った日、珍しい通知が来ていた。好きな人が出来たんだ〜という内容だった。まるで似つかわしくないハートマークを使っていたのをよく覚えている。なんて返したのかはもう忘れた。もう仕方のないことだと、ひたすらバイトの予定を詰めた。そうやって日々を過ごしているうちに不意に思い出してまたアプリを開いた。何度スクロールしても見つからない。自分は察しが悪い方ではない。真似るようにそのアプリを消して、部屋の照明を落とした。